短編 スピーク・ライク・ア・チャイルド ※ 「錆びつく南風」の続きの話ですが、読んでいなくても一応読めます。 街灯がぼんやりと照らす中シートに深く腰掛け、胸元のポケットから煙草を取り出し火を付ける。その一連の動作を、何年も繰り返している。煙をふぅ、と吐き出せ …
短編 春の嵐 ゆっくりとした動作で、一つ、二つ、三つ。クラピカの予想通り、角砂糖は三つ。カップに沈んでいったそれらは、ぷくぷくと小さな笑い声のような泡を控えめに出しながら少しずつ溶けていった。 流れるような動作で無駄なく動いていく …
短編 東京の女 神室町には唯一ひとつだけ神社が存在する。そのすぐ近くにレコード屋が店を構え、そしてその隣に、その喫茶店はあった。 24時間、朝から晩まで魑魅魍魎が跋扈するかのように騒々しい神室町も、この神社がある界隈だけはわずかばか …
短編 錆びつく南風・後 今日も変わらずこの街は小汚くて賑やかだ。しかしこの小汚さが、妙に親近感を抱かせることに最近になってようやく気付きつつあった。タバコに火を付け一息つき、閑古鳥が鳴いているであろう中国茶専門店を目指して歩く。しばらくすると …
短編 錆びつく南風・前 ※警察や麻薬売買、街の描写など、全てフィクションです。 刺すような暴力的な日差しに思わず顔を顰めた。 海辺の大通り、それに面した広い公園、歩道橋。何度も通った、見慣れた景色。溜息をつきたくなる。 俺はヨコハマの街が …
短編 南向きベッドより愛を込めて 重たい瞼を開けると、目尻が少し濡れていた。 まだ夢の名残を引きずっている重たい頭でぼんやり考える。もう一人の朝には慣れてしまったけれど、たまに今日みたいな、胸をつぶされてしまうようなどうしようもない気持ちで目覚めるこ …
短編 青嵐のよる あ、とどちらからともなく声を上げた。 数メートルほど先には、大きな体躯を少しだけ丸めるようにして立っている男のひとがいる。冴島さんだ、とすぐにわかった。夕暮れの淡い影が、なめらかに冴島さんに落ちている。表情ははっきり …
短編 恋泥棒 今日もPC上の社内チャットツールは相変わらず目まぐるしい。一つ一つ追っていくのは骨が折れる。特に、綿密な作業をしている場合は尚更だ。自分の集中力の限界を感じ、一息つこうと背もたれに背中を預けた瞬間、胃のあたりがくぅと鳴 …
短編 スロー・テキーラ お気に入りのラジオの番組はいつの間にか終わっていて、騒がしいフットボールの実況中継に変わっていた。それに気づかなかったくらいぼんやりとしていたらしい。ボンネットガラス越しに見える雨上がりのアスファルトがビーズのようにき …
短編 ガールフレンド 「ねえミスタ、ちょっと」 キッチンでリズミカルな音が途絶えたと思ったら、痺れを切らしたような表情でがひょこっと顔を出した。 「どうしたんだよ」 ソファでくつろいでいたミスタはゆっくりとした動作で腰を上げた。がブランチ …